十三人目の怒れる男

公認会計士を目指してた男のいろいろなアレ

『半落ち』 横山秀夫 ☆☆

半落ち (講談社文庫)

半落ち (講談社文庫)

映画のCMで寺尾聡が重苦しい表情をしてて、「こらワイの好きな重いストーリーやでぇ」と、ヒューマンドラママイスターの私の食指を動かせたので買ったはいいものの、何故か読まずに放置してた本です。

・あらすじ

「妻を殺しました。」現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に”落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは…。

 

・作品の進み方

それぞれの瞬間、梶の逮捕→尋問→鑑別所…といったシーンで中心となる人物に焦点を当てて章立てていき、梶に関わる人々の心情を知っていく事で梶の心情を掴む。

 

・感想

まず妻を扼殺してからの二日間を「何故語らない」のか?というところが最大の関心事となり、どんな秘密が隠れているんだろうかとワクワクしました。

読み進めていくと意外な事に梶の素性こそ尋問されるので明らかにはなりますが、梶という人物を描くエピソードが長々と語られる場面はなく、むしろ関わる人物の抱える問題や現職警官が起こしてしまった事件がゆえの警察の世間への印象操作のための工作や警察と検察のパワーバランスゲームが行われるなど、真実とは離れた部分に話の焦点が合い、進んでいくので非常に驚きました。

警察の部分を離れた後の章では、「嘱託殺人の是非」について注目された作りになっておりこれまた空白の二日間から離れたところで争いが勃発。

最初の方で、連続少女暴行殺人事件といった物騒な事件が起きていたので「もしやこの事件と繋がっていたのでは…?!」と明後日の方向に予想を立ててみるも、警察内部のゴタゴタの一部としてしか描かれていなかったので、全く無駄な予想でした。

オチは、梶は妻を扼殺後自らも死のうとするも過去に骨髄移植で救った青年の成長した姿を確認したくなり歌舞伎町まで出向き、ラーメン屋で生き生きと働くその子の姿に感動し、骨髄バンクの登録が抹消される51歳までにもう一人救おうと決心し、生き恥を晒し他人(警察)に迷惑がかかることになってもそれまでは生きるため自首した、ということです。

骨髄バンクの登録抹消に拘ったのは「殺人者の血を受けている」と助かった子に思われたくないので、気付かれる前に姿を消してしまおう(刑務所内で自殺する)という想いからです。

作中の人物も言ってましたが「そこまで綺麗に生きなくていいんですよ」の一言に尽きる。

進み方の部分でも言いましたが他人を通してこのストーリーが語られているので、ここまで綺麗な人間が出来上がる「梶聡一郎」という章が無いといくら小説といえども梶の人物像が浮世離れしてて、実体が感じられませんでした。

何かもっとドス黒いものを期待してた自分にはこのオチは弱すぎて、メジャーな小説で初めてガクッときた作品だったので、自分の評価の低い作品を読んだ時の気分が味わえた点が収穫といったところでしょうか。