十三人目の怒れる男

公認会計士を目指してた男のいろいろなアレ

『疾走』 重松清 ☆☆☆

疾走 上 (角川文庫)

疾走 上 (角川文庫)

疾走 下 (角川文庫)

疾走 下 (角川文庫)

積み本シリーズ第二段(恥)

これはふらっと買ったんじゃなくて、何かでお勧めされてたのを見て明確な意志で買った一冊です。

 

・あらすじ

広大な干拓地と水平線が広がる町に暮す中学生のシュウジは、寡黙な父と気弱な母、地元有数の進学校に通う兄の四人家族だった。教会に顔を出しながら陸上に 励むシュウジ。が、町に一大リゾートの開発計画が持ち上がり、優秀だったはずの兄が犯したある犯罪をきっかけに、シュウジ一家はたちまち苦難の道へと追い 込まれる…。

 

・作品の特徴

主人公であるシュウジを指す言葉が「おまえ」である点で読み手を主人公であるかのように錯覚させる手法なのかと思ったが、後に語り手が神父であることがわかり、シュウジを指す言葉であると改めてわかる。

 

・感想

本文を読むとあらすじのように急激な不幸が押し寄せるのではなく、ゆっくりと、理路整然と、不幸が押し寄せて来たので、逃れられない運命を感じさせ、それがより残酷で興味深く、物語を読む意思をぐいぐいとひっぱってきました。

進学校で落ちぶれ放火という犯罪に手を染め完全に壊れる兄、放火犯という赤犬を出した家庭を徹底的に痛めつける世間に負け蒸発する父と母、そして残された、動くことは出来てしまう壊されたにんげんのシュウジ。中学1年生の時に出会ったエリという美少女の存在すらも、叔父に性的虐待を受ける悲しい傷を持つにんげんであり、関わるにんげんの全てが不幸です。

これだけ不幸が立ち並んだ陰鬱としたストーリーなのに、読み進めていけるというのが重松清さんという作家の凄さを感じさせたので、「作家さん凄いな。」というのが一番の感想です。

物語の中によき相談者である神父が登場するので、物語の節々に聖書の1節が挟まれるのも非常に面白かったです。聖書読んでみたいとかいう友人が居たのでその気持ちが少しはわかった。まぁその友人はこういう意思で読もうと思ったんじゃないだろうが。

聖書とは言葉であり、人は何故言葉を残すのかといえば、後悔しているからなのかもしれない。

また、まだ幸せだった頃のシュウジは陸上部に所属していたので、走る理由を語っている部分も、自分が陸上部に所属していたおかげで胸にすっと入ってきて気持ちよかったです。

「走ると、風が吹きつけてくる。

 自分のつくった、自分だけのために吹く風だ。」